
工場でAIを使う話をすると、「パソコンの前に座る時間がない」と言われます。実際その通りで、現場の人が一日にパソコンを開く回数は限られています。
ただ、答えが必要になるのは、たいていパソコンから一番遠い場所です。棚の前、機械の横、電話を持ったまま。そこで調べられずに事務所へ戻り、開いて、探して、また戻る。この往復が待ち時間を作ります。
イヤホンとスマホで声で聞ける、というのはここに効きます。具体的にどんな場面か、5つ挙げます。
1. 欠品しそうな材料の確認
棚の前で「この材料、あとどれくらい持つか」を知りたい場面です。棚を見れば今ある数は分かりますが、入荷予定と受注残を足し引きした正味の持ち高は、その場では分かりません。
声で聞くと、手持ち+入荷予定−受注残を計算した結果と、いつ切れそうかが返ります。棚の前で判断できるので、事務所に戻ってから「やっぱり足りない」と気づく回数が減ります。
2. 物の場所
「あの治具どこ?」「予備のベルトの在庫は?」。この質問が一番多い工場は珍しくありません。
物の場所は写真つきで登録しておけば誰でも答えられる情報なので、本来ベテランに聞く必要がありません。声で聞いて、スマホに写真が出れば、その場で取りに行けます。ここは導入初日から効く場面です。
3. 明日の人員が足りるか
夕方、翌日の製造予定を見ながら「明日、人は足りるか」を確かめる場面です。
見るのは頭数ではありません。その日の製造に必要な工程を、シフトに入っている人ができるかです。5人いても、必要な工程を1人しかできなければ、その人が休んだ時点で止まります。
声で聞くと、翌日の製造予定とシフトを突き合わせた結果が返ります。なお、この場面ではスタッフの情報を扱いますが、実名はAIに渡らない設計です。「9時以降しか入れない人が1名います」のように、必要な事実だけが返ります。
4. 歩留の変化
「今週、あの製品の歩留が下がってないか」を、機械の横で確かめる場面です。
月末に集計して気づくのでは遅く、変化した週のうちに掴めるかどうかで、対処の手間が変わります。声で聞いて、いつから・どの工程で変わったかが返れば、その足で現物を見に行けます。
ここで大事なのは、AIが原因を断定しないことです。返ってくるのは「この時期から下がっている、同じ時期に材料ロットが変わっている」という事実と仮説までで、原因を決めるのは人の仕事です。
5. 納期の回答
電話口で「いつ何個出せますか」と聞かれる場面です。これが一番、その場で答えられると効きます。
在庫・入荷予定・製造の負荷を見て「この日なら何個」が返れば、折り返しの電話が要りません。折り返しを1回減らすだけで、相手の心証は変わります。
線引きは「提案まで」
5つとも、AIがやっているのは読んで、計算して、答えることです。
「じゃあ発注しといて」と言った場合も、その場で発注は飛びません。作られるのは発注の**下書き(提案)**で、承認待ちの一覧に入ります。事務の人が画面で内容を確認して承認したときに、初めて実行されます。声で頼めるのは提案までで、承認は画面で人が押す。この線は動かしません。
「AIは提案まで、承認は画面で」 — 現場に説明するときは、この一言をそのまま使ってください。「AIが勝手に発注したらどうするのか」という一番大きな不安が、最初に潰れます。
実際に始めるときの注意
- 音声は静かな場所で。機械音が大きい場所では、聞き取りが落ちます。イヤホンのマイクと、少し離れた場所を使い分けてください
- 最初は3つに絞る。5つ全部を一度に説明すると覚えられません。物の場所・欠品確認・納期回答から始めるのが入りやすい順です
- AI側の契約はお客様側で必要です。Claude や ChatGPT の利用契約はご自身で用意していただく形になります
実際に話しかけてから答えが返り、提案が承認待ちに入るまでの流れは、文章より動いているところを見たほうが早く伝わります。AIウェビナーでは、工場の業務でどう使うかを扱うトラックで、この一連の流れをお見せしています。


